音楽業界の5年先を考えてみる【後編】

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こんばんわ。

前編に続き、後編をつらつらと書いていきます。

前編では如何にして、レコード会社が自分たちで自分の首を括るような真似をしてきたかを駆け足で書きました。多分、語られなくてもそれぐらい分かってるよと至極一般的な情報だけだったかもしれませんが、「いつからレコード会社はクリエイティブを諦めたのか」今回はこの辺りを触れていければと。

売上至上主義がもたらす罪と罰

CDに付加価値を付けて販売するという事がルーティン化され始めた2010年代、恐らくレコード会社はそこで「いい音楽を作る」というプライドもそこそこに売上にばかり目が眩み始めていた。

語弊があってはいけないので、補足しておくと完全にいい音楽を作る制作をみんながみんな諦めたわけではなく、レコード会社社員1人1人の意識でやはりヒットというモノがポツポツと作られていたのも事実ではあるし、「こだわり」を持ってアーティストと向き合いちゃんとヒットを作っている優秀なレコード会社社員も存在していた。
もちろん、僕も元々は「音楽が好き」で熱を入れてヒットへの手伝いをしたアーティストを何組も担ってきた自負はある。

ただ、その努力とは裏腹に年々下がってしまう音楽パッケージの売上にレコード会社各社は頭を悩ませてしまう時代へとここから突入する。

どの業界にも当てはまると思うのだが、「こだわり」を突き詰めて行くと、どうしても時間や予算をかけなければならない瞬間があり、「こだわり」を守ろうとすればするほど会社経営陣と現場の考え方は乖離していくばかりである。

そのような環境で音楽作りを余儀なくされてしまう中で、尊敬する先輩や良いなと思っているアーティストの契約も虚しく会社によって切られてしまう事象を重ねていく。

ただ、いい音楽が作りたい。

本来、レコード会社が持ち続けなければならない「こだわり」は日々のセールスダウンや市場規模縮小によって打ち砕かれていく。
会社ではいつしか「選択と集中」という言葉が声大きく社員に告げられ、社員の「こだわり」や「アーティストへの愛」は会社が定めるプライオリティにへし折られる日々を繰り返す。その鬱々とした、閉塞感のある時代を2013年頃から味わうハメになってしまう。

徐々にメジャーレコード会社はヒット本数を減らしている。
その原因を次のテーマで紐解こう。

誰しもにチャンスがある、自然な形の現代

時が過ぎ、音楽の聞く形が「サブスクリプション」「You Tube」などに移り変わる現代でとても面白い事が起き始めている。まず僕が最初に感じた瞬間はKing Gnuのスタイルだった。


www.youtube.com


彼らは芸術大学出身の、生粋のバンド・クリエイティブチームによって音楽を元より、本来はレコード会社が担うべきMusic Videoやアートワークの領域をいち早く高いクオリティで提供し、更に「PERIMETORON」というクリエイティブチームを自分たちで発足し、クリエイティブの全てをそこで担うというやり方が、インディーズではとても珍しかった。

例えば、ボカロPと歌い手が手を取り合い、楽曲に合うアニメーションやイラストを絵師にお願いする。アンダーグラウンド界隈同士が「持ちつ持たれつ」で行うソレにも近しいが。King Gnuがすごいのは、クリエイティブ軸でまず異才を放ち、興味関心を惹きつけながらアクティブにLIVEやメディア出演をして行く所謂従来のアーティスト活動とネット活動のハイブリットであるという事が何よりもすごい。
そこから徐々に、その様なやり方を踏襲してきたバンドもいくつかあるとは思うが、表立って成功したバンドの1番手であるだろう。

King Gunの凄さはメディア出演にも現れていたが、それはまたどこかで。

そして、先にも話をしていたボカロPと歌い手、絵師がチーム編成しプロジェクトをバンドっぽく見せ、クリエイティブを展開する大きな流れが出てきたのも言うまではないだろう。米津玄師、Eve、Ado、ツユなど次々に才能がYou Tubeから出てくる流れが現段階も続いている。

僕はこの流れを見て一つ感じたのが「90年代中期にとても似ている」と。
その理由は幾つかあるのだが、90年代中期は「CD」という新メディアが次々とアーティストの意欲を掻き立て、レコード会社も躍起になって新人を輩出していった。当時は当たり前だが、ネットもない中CDショップに並べられる新人のCDが注目されていたし、各媒体で少しプッシュすれば注目されるアーティストを作れた時代。この時代、レコード会社的にやりやすかったのが「押せば売れる」という感覚で、次々とヒットを作った。90年代を生きてきた人達は分かると思うのだが、ヒットチャートに食い込むアーティストの曲は大体口ずさめていたという現象。これはアーティストが「売れるぞ!」と躍起になって作品を作り、作品の露出がテレビやラジオに集中、新しい音楽の情報をユーザーが積極的に取りに言ってたからこそ共通の話題として口コミの中でも伝えられ、それを繰り返す内に口ずさめる様になっている。

そして、現代。圧倒的に注目されているメディア「You Tube」によって、アーティストは新しい活動の場所を作れる事となった。なんとしてでも売れたいというアーティストは自分たちの自信のあるクリエイティブを作り、You Tubeへどんどん投稿して行く。次第にチャンネル登録者が増え、その数字がバリューとなり新作を出すと他SNS媒体にも波及し、クリエイティブを出すだけで一発でプロモーションまでを完了する事ができる。これを僕はよくこの言葉を使うのだが「引きで売れる」ということ。
とにかくバズって瞬間風速を稼いだ曲は大体サビは歌えるという感覚を最近よく感じる。これは、先にも話した現象の流れと一貫性があるのだ。
だから、現代ではアーティストネームで売れるのではなく曲が一人歩きして「曲が売れる」のだ。

ただ、一つ残念な事がその大きな流れをメジャーレコード会社は掴み損ね、素人同然のアーティストの方が注目を集める事に成功している。
これには、メジャーレコード会社が怠った。プライオリティと決めたアーティストの育成期間を見誤った事が大いにあるだろう。

では、何故現代においてメジャーが作れなかったネット上でのバリューを素人同然の人達が作れるようになったのか?それは一言に

音楽に直向きでピュアであるが故に、ユーザーに伝わりやすい

僕はこれ以外、納得できる理由が見つからなかった。
メジャーが捨ててきたこの一言に僕は納得せざるを得ないのだ。

 

下請けになるレコード会社のこれから

そもそもの話。
音楽は「娯楽」である。

「娯楽」はトレンドを掴むと、人を集め金を生む。それで一時代は金儲けができたが、現代は徐々に音楽の本質である「娯楽」に回帰している様に感じる。

僕は日頃から常々、最近の音楽シーンは面白いと言っている。その反面、メジャーが苦しいのは何故なのか?結局は「売れる商品を作ろう」とする商業音楽思考が苦しみを生んでしまうのだと。

既にバズっているので説明するまでもないが、このクリエイティブチームをご存知だろうか?

www.youtube.com


僕はこのチームが展開するやり方、切り口、センス、音楽。
全てに対して嫉妬した。リアルに悔しかった。
それは、メジャーにいる僕たちでは考えつかない領域だったからだ。
音楽が好きで、誰かとモノづくりする事が好きでという姿勢を見せつけられた。


迂闊な事は言えないのだが、恐らくメジャーは手伝って居ない案件。(いや、天下のソニーさんが作ったプロジェクトかも、、、)
であり、そうであるならば尚更悔しいのだ。

もう、アンダーグラウンドはここまで来てる

明らかに、メジャーを凌駕した企画だと僕は評価している。
誰が勝って、誰が負けるなんて気持ちは本当は音楽には不必要ではるのだが、レコード会社社員の悲しい性ですが、、

この様な、アンダーグラウンドで数字を積み上げ、積み上がりきったアーティストをメジャー契約して行く流れが現段階ではあるが。
僕はこの流れがとてもじゃないけど、長く続くとは思えない。何故なら、アーティストも馬鹿ではないし、メジャーの中身を垣間見たら外に出たくなると思うから。
せいぜい、メジャーが手伝える領域は少しの宣伝費と紅白、Mステぐらいだから。(タイアップも徐々にアーティストへ直接依頼が来ている。)
宣伝協力の部分で現状辛うじて契約をできているが、テレビの衰退も著しい今、いつまで持つのだろうか?という気持ちである。

アーティストに気づかれ、「レコード会社に旨味なし」と思われ逆に捨てられるオチが見えている。そうなると、必死こいてアーティストにメリットを持てる契約や施策、そもそもの「古き良き」を見直さなければならない瞬間が絶対にやってくる。
そこでようやく、レコード会社は本質を思い出すのだろう。

いかがでしたか?
文章が下手でまとまりが悪かったですが、今現役レコード会社社員が語る音楽業界の端々が見えた文章になったかな?と。

レコード会社に対して厳しく書いたのは、僕自身を戒める為であり。今、音楽が面白いからこそ、急務で進めるべきマインドチェンジだと思ってます。本来、レコード会社とアーティストは手を取り合って、いい作品を作る関係でなくてはならない。綺麗事だと言われても、僕自身、ずっとこの考えは変わらないと思います。また、レコード会社とアーティストが持ちつ持たれつの関係になる事を願って、今日も僕は音楽業界で働きます。